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えんおうシリーズ最終戦 ―2014年02月09日―


「今の試合で、勝った方が、このベルトに挑戦するのかしら?」
ジェシーは、リングを見下し、挑発的に語り出した。
「この一カ月で、我々のユニットは、十五回もの防衛に成功してきた。全て、ここにいる、アリスのお陰で」
金髪のレスラー、アリス・リビングストンを、現在のローガ王座チャンピオンだと紹介。
インディで活躍する選手らしいが、観客のほとんどは知らず、実力も未知数という訳で、反応もいまいちだった。
「我々は、アメリカで着実に基盤を築いている。大石が挑戦するつもりなら、もちろん、アメリカに来てもらうわ」
ここで客席の一部から冷笑が漏れたのは、それほどアメリカで、彼女たちの存在が大きくないと、ネットで知っていたからだろう。

「ジェシー、熱戦の後は、顔を出すのを控えてくれないかな。客が冷めちゃうだろ」
ここで、CEOが、リングサイドに登場。
「君たちが、インディ団体を、そこそこ荒らしまわってるのは評価してやるよ。だけど、そんなボディビルダーまがいじゃ、僕のベルトを持つのに相応しくないな。レスリングも出来ないんじゃないか? 大石が挑戦するのは構わないけど、実際に誰がやるのかは、彼女たちに任せるよ。というのも……」
CEOは、間を空けて、客席を見渡す。
早く続きを言え、と野次が飛ぶも、全く動じる様子は無かった。
「えーとね、僕は僕で、別に動こうと思うんだ。つまり、御伽桟敷に、ベルトが戻ってくればいいんだからね。ジェシーのユニットと、御伽桟敷の選手たち、そして、この僕のチーム。三つの陣営が争うってのは、どうだい? 僕は独断で、もう挑戦者を決めてきた。おーい、音楽を頼む」

どこかで聴いたテーマ曲が流れ、、登場してきたのは、ビッグ・ホルスタインだった。
大石を破り、ローガ王座二代目に就いたホルスタインの姿へ、観客は、ようやく反応。
あのまま静まり返っていたら、どうしようかと思った。CEOは興行終了後、そう語っている。
「実はね……ホルスタインは、今でもチャンピオンなんだよ。だから、正式には、ホルスタインの防衛戦って事になるかな」
客席に戸惑いが広まる。いや、それはジェシーにとっても同じだったらしい。
「彼女は、元チャンピオンよ! 契約も、大石とのワンマッチだけ」
「いやいや、ジェシー。その、隣にいる冬月が、テレビで口にしたんだけどね、ベルトの剥奪は、契約不履行の場合だと。契約書も、そうなってる。そして、ホルスタインは、契約通りの試合をした。ベルトの所有権は、消えてないんだよ」
「契約が終了した以上、所有権を訴えるのは、興行を妨害する行為よ」
「これは、ジェシー、君が言ったんだけど、選手の契約に関しては自由を認めているんだったね。ホルスタインは、僕と契約し、ベルトそのものは、CEOの僕に最大の権利がある。チャンピオンが誰かを決定できるのは、僕だ。君らがベルトを持つ自由は認めてもいいけど、チャンピオンは別にいる。つまり、未だに所有権を持つ、ホルスタインがチャンピオンだと、僕は認めた」
「ベルトを持っている者が、チャンピオンよ!」
「僕の認めた者が、チャンピオンだ。だが、無粋な真似は、やめておこう。次のシリーズ、君たちの誰かが、このリングで、ホルスタインと試合をする。それで手を打とうじゃないか。冬月、君がホルスタインと試合をしてもいいんだよ」

喧騒の中、大石は無言で退場。「試合を壊された気分」と、インタビューで怒りをぶつけた。
ジェシーが試合を了承し、ホルスタインが場内を盛り上げる中、御伽桟敷のエースである雨宮は、セコンドに誘導され、うつむいたまま、リングを降りた。

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